[論文]非相反マイクロ波吸収の室温観測
室温マルチフェロ物質を利用した室温での非相反マイクロ波吸収の初めての観測および制御を行なった研究が 米国物理学協会が発行する学術雑誌の速報版「Applied Physics Letters誌」に2022年11月28 日付で掲載されました。この論文はEditor’s picksに選ばれました。この研究は私が東京大学で博士課程中に村田製作所と共同で行なったものです。
物質中の対称性の破れは、興味深い物理現象を引き起こす。例えば、空間反転対称性の破れた系では、圧電性や自然旋光性が現れる。また、時間反転対称性の破れは、ホール効果やファラデー効果などをもたらす。近年、磁性誘起強誘電性(マルチフェロイクス)の発見を契機として、空間と時間反転対称性が同時に破れた系に特有な物理現象への関心が高まってきている。その一つが電気磁気効果であり、電場によって磁化が変化し磁場によって電気分極が変化する。反転対称性の同時の破れは、素励起の動力学にも影響を及ぼします。その一つとして、波数+kを持つ素励起のエネルギーと減衰率が、波数−kの場合と非等価になり、これを非相反性という。先行研究で我々は、マルチフェロイックヘリ磁性体Ba$_2$Mg$_2$Fe$_{12}$O$_{22}$の磁気共鳴モード付近で非相反マイクロ波吸収を観測しこれをポーリング電場・磁場で制御することに成功した。(Y. Iguchi et al., 2017) だが、これは6 Kという非常に低温でのみ行われた。本研究では、室温マルチフェロイックヘリ磁性体BaSrCo$_2$Fe$_{11}$AlO$_{22}$を利用することで室温で非相反マイクロ波吸収を観測することに成功した。非相反吸収は6−20GHzの周波数帯で観測され、その符号をポーリング電場で制御することに成功した。このようなマイクロ波特性は次世代ワイヤレス通信の実用化につながると期待される。
S. Hirose, Y. Iguchi, Y. Nii, T. Kimura, and Y. Onose
Nonreciprocal microwave response at room temperature in multiferroic Y-type hexaferrite BaSrCo$_2$Fe$_{11}$AlO$_{22}$
Appl. Phys. Lett. 121, 222401 (2022) [Editor's picks]