[論文]擬二次元超伝導体Pd$_x$ErTe$_3$における異常な超流動密度の温度依存性の観測
擬二次元超伝導体Pd$_x$ErTe$_3$の局所的な超流動密度観測を行なった研究が 米国物理学会が発行する学術雑誌の速報版「Physical Review Letters誌」に2024年7月15 日付で掲載されました。この論文は、Editors' Suggestionに選ばれました。
超流動密度$n_s$は超伝導秩序変数の剛性を示す重要なパラメータであり、従来の三次元BCS(Bardeen-Cooper-Schrieffer)超伝導体では臨界温度$T_c$付近でその温度微分$dn_s(T)/dT|_{T\rightarrow T_c}$が緩やかに増加します。例外として、コヒーレンス長より十分薄い二次元系では急激な温度微分$dn_s(T)/dT|_{T\rightarrow T_c}$が予想されます。これは低次元系では熱的な揺らぎが強くなり$T_c$がBCS理論の値からBKT(Berezinskii-Kosterlitz-Thouless)転移温度まで抑制されるためです。
しかし、我々が走査型SQUID顕微鏡を用いて無秩序な電荷密度波物質である擬二次元層状超伝導体Pd$_x$ErTe$_3$のバルク単結晶における超流動密度の挙動を調べたところ、$dn_s(T)/dT|_{T\rightarrow T_c}$が$T_c$付近で顕著に増加することが分かりました。観測された超流動密度の温度依存性は三次元BCS超伝導体から期待される挙動から逸脱しています。この現象は熱的な揺らぎに加えて量子揺らぎが超流動密度の決定に重要な役割をする量子回転子(Quantum rotor)モデルのシミュレーション結果とよく一致することが分かりました。これらの結果は、擬二次元超伝導体における量子揺らぎの探求において超流動密度の温度依存性測定の有用性を示しています。